「そうか、あかんか。一緒やで」悲劇の介護殺人事件の詳細とその後 社会

「そうか、あかんか。一緒やで」悲劇の介護殺人事件の詳細とその後

目次

[表示]

事件当時のこともありコピペとして扱われるように

rawpixel / Pixabay

この殺人事件については当時も大きな話題となっていましたが、片桐氏の自殺のニュースを受けて、再び多くの人の目に触れることとなりました。

多くの人の涙を誘った片桐母子の心中時のやりとりはコピペとして掲示板に頻出し、ネタとして使う人も現れるようになり、今日に至っています。

片桐康晴の家族について

mario0107 / Pixabay

片桐氏は兄弟もおらず、結婚もしていなかったため両親と3人の家族でした。悲しい結末を迎えた家族でしたが、どのような家庭だったのでしょうか。

父親について

Free-Photos / Pixabay

片桐康晴氏の父は京都府京都市に生まれ育ち、西陣織の糊置き職人をしていました。糊置きとは、下絵をもとに防染の糊を布地に乗せていく作業で、美しい柄を染めるためには重要な技術です。

性格は口よりも先に手が出るタイプだったそうです。「他人に迷惑をかけたらあかん」という教えが、その死後も片桐氏の心に強く残っていたことは、事件後の供述からも分かります。

職人気質で厳格な父でしたが、片桐氏は尊敬し、35歳までは父の弟子として働いていました。別の仕事への転職は、呉服業界の不況に迫られてのことでした。

母親について

sabinevanerp / Pixabay

認知症を患う以前の母親の様子については、詳しくは語られていません。しかし、症状が進行して子供のような言動をしても片桐氏が「かわいくてしかたない」と思えるほどです。

また、認知症を患ってもなお、息子と笑顔ある生活を送ってきたことや、死を覚悟した際の「康晴はわしの子や」という会話などからも、愛情深く息子を育ててきたことは想像に難くないでしょう。

現在もなお介護問題は多い

高齢化が進む日本では、この事件に限らず介護に関わる問題が数多く発生しており、改善のために法整備や様々な取り組みが試みられています。

介護をめぐる事件は現在も続いている

Anemone123 / Pixabay

介護に纏わる事件は片桐氏のような殺人事件だけではありません。介護疲れに悩む家族や、更には介護施設のスタッフによる虐待も問題になっています。

家庭では、介護を担う人自身も高齢である「老老介護」、家族の中で介護の負担を受けているのが一人だけになっている「ワンオペ介護」などの状況が介護疲れの一因となっています。

また、介護施設の不十分な環境・厳しい労働条件など、様々な原因が問題の背景としてあり、対策が求められています。

事件後にできた制度

CQF-avocat / Pixabay

既に日本全体を悩ませる規模となった介護問題に対応するため、国は社会保障制度を見直し、法改正や新制度の施行など、様々な取り組みを行っています。

  • 介護保険法…2000年の施行から今日に至るまで、幾度か改正されています。直近では昨年2018年に改正が行われ、収入が多い人の自己負担額などが見直されています。
  • 高齢者虐待防止法…介護に疲れた肉親による虐待が後を絶たず、2006年に施工された法律です。身体・精神的なもののみならず、財産の不当な処分や搾取も経済的な虐待として定義されています。
  • 後期高齢者医療制度…2008年から始まった、75歳以上の後期高齢者専用の独立した保険制度です。高齢でも所得を得ている人など、多様な対象に応じて保険料が度々見直されています。

高齢化社会の日本では介護に関する改善の声が多い

michaelform / Pixabay

制度の整備が進められているものの、改善を求める声は尽きません。

介護職の過酷な労働環境は度々問題に挙げられています。細やかなサービスが求められている一方で、労力に見合わない低賃金のためスタッフが集まらず、介護の現場は常に人材不足です。

こうした状況から、介護施設の入居待ちと共に、家庭内のでの介護疲れや問題は増えるばかりなのです。

介護に関する事件について

truthseeker08 / Pixabay

今日、介護に関わる悲しい事件はテレビや新聞でも毎日のように報道されています。そのうち、近年起こった事件をいくつかご紹介します。

2016年埼玉県秩父市 逮捕後に食事を拒み、死を選んだ夫

MonicaVolpin / Pixabay

「妻を刺した」と自ら通報し、逮捕された男性(当時83歳)。彼は「介護に疲れて無理心中を図った」と話した後、取り調べには一切応じず、留置所で食事をほとんど口にしないまま亡くなりました。

もとは地域でも評判の良い夫婦でした。妻の認知症と同じ時期に、夫もガンを患っていることが分かり、自身の死期を感じながら妻を残して逝くことに悩んでいたようです。

この事件の男性も、「他人に迷惑はかけられない」という想いが強くありました。自分と妻の今後について、不安な気持ちを周囲に話してはいましたが、外部の介護サービスを頼むことは少なかったようです。

2016年兵庫県加東市 夫が認知症の妻を殺害した事件

2016年4月、夫である男性(当時82歳)が、認知症の妻(当時79歳)の首を電気コードで絞めて殺害した事件です。周囲の十分な協力が得られず、心身ともに疲弊した末に及んだ犯行でした。

こちらは片桐氏の事件と同じく執行猶予がつき、温情ある判決が下されました。すぐに自首して犯行を深く反省していること、家族も処罰を望んでいないことなどが実刑回避の理由として説明されています。

この事件に寄せられた減刑を求める嘆願書には、地元住人176人の署名が集まりました。判決の終わりに、裁判長は被告へ「一人で抱え込まず、家族や地域の人たちに自分から一歩近づいてほしい」と語りかけました。

2019年大阪府大阪市 老人ホーム内で殺人未遂事件が起きる

TesaPhotography / Pixabay

2019年9月29日、大阪市内の有料老人ホームで認知症の女性(96歳)がタオルで首を絞められ、殺害されかけるという事件が起こりました。

この事件を起こしたのは被害者の息子の男性(69歳)で、認知症の母の介護を10年間続けた末に、生活に希望が持てなくなっての犯行だったといいます。

施設職員が止めに入ったために未遂で済みましたが、その後、男性は最寄りの交番に直行。「母親を殺そうとしました」「職員さんが止めなかったら、殺していた」と自主しました。

2020年沖縄県 無理心中か?要介護の夫を妻が殺害した疑い

adamtepl / Pixabay

2020年6月18日、沖縄県南風原町に住む男性から「帰宅したら父が倒れていた」と救急に通報が入りました。男性の父親(76歳)はそのまま亡くなり、死因は頸部圧迫。

鬱血痕もあったことから首を締められた可能性が高く、犯人は同日に水を張った浴槽で意識不明となっていた母親(70歳代)であり、無理心中だった可能性が高いとされています。

現在も母親の意識が戻らないため事実確認はできていませんが、被害者は要介護で車椅子生活を送っていたため、介護疲れが心中の原因だったのではと報じられています。

海外でも介護が原因の事件は起きている

geralt / Pixabay

老老介護が原因の悲しい殺人事件は、海外でも起きています。2018年にはイギリスでは84歳の男性が認知症の妻を殺害、あまりにも悲しい殺害動機は日本でも報じられました。

男性は妻に対して「絶対に施設に入れない。1人にはしない」という約束をしていました。その約束を守るべく1人で介護をしていたものの、自分がヘルニアを悪化させたことで将来に大きな不安を持つように。

そして心神喪失状態になって妻を殺害してしまったのです。2人の間には子供もおらず、誰にも男性は追い詰められていく心中を明かさなかったといいます。

介護殺人の原因

Wokandapix / Pixabay

多くの介護殺人において、主な動機や原因は「介護疲れ」と「将来への悲観」となっています。多くの介護者が加齢による自身の体調不良や、終わりの見えない介護に絶望を感じて追い詰められていくのです。

施設に入居できない場合は家に籠もりがちになり、ますます介護者が孤独な状態に陥りやすくなっています。また、そのような介護者の厳しい状況を目の当たりにして、心苦しさに悩む被介護者も少なくありません。

第三者が介護の現場に介入し、身体的・精神的なものだけでなく、経済的な援助など、様々な側面から介護者をサポートできる社会が必要とされています。

介護を取り扱った小説・映画作品など

andreas160578 / Pixabay

心痛む事件の報道が絶えない介護の現場は、創作の世界でも題材として多く取り上げられています。そこでは厳しい介護の現実だけではなく、フィクションならではの明るさや希望も描かれています。

「覆面介護士ゴージャス☆ニュードウ」

2012年に出版された小説、著者は木村航。ワケありで覆面プロレスラーから転職した新人介護士の物語です。ポップでキャッチーなタイトルと表紙が目を惹きます。

登場人物たちの東北訛りのセリフや、主人公が慣れない介護に戸惑う姿、施設の利用者も悪態をついたりする様子など、端々の描写から生身の人間の姿が感じられます。

また、自立支援法が抱える問題などにも触れており、介護の現場が抱える悩みや現実を美化せずに描きだそうとしている作品です。

「任侠ヘルパー」

草なぎ剛主演のフジテレビ系ドラマで、2009年7月放送、2012年には劇場版も公開されました。主人公たち6人のヤクザが老人介護施設でヘルパーとして仕事をするというドラマです。

もとは高齢者相手の振り込め詐欺で生計を立てていた主人公は、初めは介護の仕事も見下していました。しかし、介護ヘルパーの仕事を通して様々な高齢者とかかわっていく中で考えが変わっていきます。

「最強のふたり」

実話をもとに作られた2011年のフランス映画。頚髄損傷で首から下の感覚を失ってしまった大金持ちの男性が、住み込みの介護人として雇ったのはスラム街出身の黒人の青年でした。

たびたびキツめの「障がい者ジョーク」が発せられますが、これには「障がいがあっても一人の人間として対等に接してほしい、同情は不要」という想いが背景に込められています。

障がい者と健常者、大富豪とスラム出身、境遇も性格も全く違う二人ですが、介護というコミュニケーションを通して芽生える友情に心が温まる作品です。

漫画『キーチVS』

新井英樹さんの漫画『キーチVS』は全編を通して様々な社会問題に触れており、京都認知症母殺害心中未遂事件をモデルにしたと思われる介護殺人の話も含まれています。

認知症介護の現実について、あまりにも真に迫った救いのない描写をされているため、漫画内の主人公男性と京都認知症母殺害心中未遂事件の片桐氏を混同してしまう人もいた程です。

「息子はアイドルオタクで家の金を使い込んでいた」と、『キーチVS』の設定を根拠に片桐氏について否定的な噂が流れたこともありますが、そのような事実はありません。

「そうか、あかんか」以外の悲しいコピペ

「そうか、あかんか」以外にも泣ける、悲しいと評されるコピペはあります。その代表的なものが「卵焼きが焼けない」というものです。

元ネタは2ちゃんねるに投稿された体験談で、味も見た目も悪い弁当を持たせる母を疎ましく思っていたが、母が急逝し、料理が下手なのは病気で思うように手が動かせなかったからだと知ったという内容。

亡くなるまで母親の様子がおかしいことに気づかないのは変だ、という点から「そうか、あかんか」とは違って作り話との指摘もありますが、こちらも語り継がれているコピペです。

コピペのネタに終わらせたくない「そうか、あかんか」という言葉

geralt / Pixabay

高齢化が進む中、介護に関わる支援制度やサービスの需要はこれからも高まっていくでしょう。また、家族や自分自身が介護を必要とする事態はいつでも起こりうることで、決して他人事ではありません。

自身が介護の当事者となった時、悲しい事件を繰り返さないためには、更なる制度の改善だけではなく、地域や親戚との助け合える人間関係づくりなど、私たちが今からでも取り組めることがあるはずです。

それを考える最初のきっかけとして、コピペネタとして流布するこの「そうか、あかんか」という言葉が私たちに投げかけている意味について、見つめ直してみるのも良いかもしれません。

2/2