ソーカル事件の真相!アランソーカル、前代未聞の知的詐欺で巻き起こった論争

ニューヨーク大学の物理教授のアラン・ソーカルが「ソーシャルテキスト」誌に投稿し、疑似投稿であったことで出版界に波乱を巻き起こしたソーカル事件は、その後イグノーベル賞を受賞しています。この事件はどういったことだったか検証してみます。

ソーカル事件とは

雑誌に投稿された論文から事件の引き金を引くことになります。様々な思想・考えに対する問題の答えを編み出す思想家・哲学者ははたくさんいます。

学派もたくさんあるのですが、その中のポストモダン思想家を批判するため、ニューヨーク大学の物理教授のアラン・ソーカルが、ポストモダン思想家の文体をまねて、科学用語、数式を使い疑似論文を作成します。

この思想の専門誌「ソーシャルテキスト」に送ったことから事件に発展していきます。

物理学教授アラン・ソーカルがソーシャルテキストに疑似論文を投稿

物理学教授アラン・ソーカルが当時人気があった人文系評価誌「ソーシャル・テキスト」誌に投稿しました。その後疑似論文であることが判明し、バッシングを受けることになるのです。

ソーシャル自身は、ポストモダン派の研究者を試すために、でたらめの論文を投稿するのでした。

疑似論文の内容は?

論文はポストモダン系の哲学者や社会学者達の言葉を引用し、数学・理論物理学の用語や数式を適当に混ぜた雑文だったといいます。

ソーカル論文は著名な物理学者が書いたエッセイ(アルチュセールのいういわゆる自然発生的哲学)を無断で引用していたそうです。

1996年5月に論文が掲載されてしまう

疑似論文は受理され、1996年5月発行の『ソーシャル・テキスト』にそのまま掲載されてしまいます。「境界線を侵犯すること――量子引力の変形解釈学へ 向けて――」という謎めいたタイトルで掲載されています。

全くのデタラメな論文だと暴露

ところが掲載されたその数週間後、『ソーシャル・テキスト』ではない別の雑誌上で、ソーカル本人が論文はパロディという驚くべき告白をします。

カルチュラス・スタディーズ系の学者の言説のパロディであり、物理を専攻する学生ならすぐ指摘できるようなでたらめの数々と、生半可な科学知識をつなぎあわせたパッチワークに過ぎないということを証言します。

断言調のかっこいいスタイルで書かれていて、社会論理、批判理論などを盛り込んで書けば「論文」として掲載されると証明した形になってしまいました。

ソーカル事件の目的

ポストモダニズムとは、進歩主義や主体性を重んじる近代主義や啓蒙主義を批判し、これらから脱却をしようとする思想運動のことです。

ソーカルは、米国の左翼がポストモダン的相対主義に誘惑されていることに苛立ちがあった為、意図的に事件を起こした目的と述べています。

ジャック・ラカン達のポストモダン哲学の科学的概念乱用の実態

ソーカルによれば、用語の本当の意味を無視して、科学的な用語を使って見せてる哲学者が非常に多いことを俎上に載せて批判しています。

ドゥールズ、デリダ、ガタリ、イリガライ、ラカンなどポストモダン思想家の大半が、数学・科学用語を濫用していたといい、数学・科学用語の概念とほぼ合致しない使い方になっていることを指摘しています。

ラカンたちポストモダン哲学者たちは、自信満々で数字用語を濫用し続けていたと『「知」の欺瞞』という著書でソーカルは批判しています。

ポストモダン哲学とは?抱えていた問題点

現代という時代を、近代が終わった「後」の時代として特徴づけようとする言葉です。現代のフランス哲学者リオタールが著書から広まって知られるようになりました。

リオタールによれば、近代においては「人間性と社会とは、理性と学問によって、真理と正義へ向かって進歩していく」「自由がますます広がり、人々は解放されていく」といった「歴史の大きな物語」が信じられていたが、情報が世界規模で流通し人々の価値観も多様化した現在、そのような一方向への歴史の進歩を信ずる者はいなくなった、とされる(『ポスト・モダンの条件』1979年)

(引用:コトバンク)

またポストモダンという言葉は、進歩主義や主体性を重んじる近代主義や啓蒙主義を否定し、そこから脱却しようとする思想運動のことを指してもいます。脱近代主義の考え方です。

ジャック・デリダなど批判の対象にならなかった者もいる

ソーカルは、ポストモダニストを中心に、哲学者、社会学者、フェミニズム信奉者らの自然科学の使い方がいい加減であると主張し批判をしています。

ジャック・ラカン、ジュリア・クリステヴァ、リュス・イリガライらなどの数知れない思想家達が彼のバッシングを受けています。しかし、ポストモダン・ポスト構造主義であっても批判されなかった思想家もいたんです。

ジャック・デリダ、ロラン・バルト、ミシェル・フーコーは批判対象になりませんでした。あくまでも数学・科学用語を濫用の要因をつくった思想家に物申したいということであったのでしょう。

研究者の粗雑な査読の実態

学術雑誌に投稿された論文の内容を審査し、掲載するかを判断する制度(レフェリー制度)があるので、学術雑誌の質を維持し掲載が出来るはずなのです。

ですが、ここ最近の査読の粗雑でトラブルが起こるケースが多発しているようです。

偽名などを使って書かれ内容はデタラメな「偽論文」が、論文誌に多数投稿されていたことが明らかになった。これら偽論文は性差別や人種問題など、あえて議論になりそうなテーマを狙って書かれていたという。投稿された論文の一部は査読を通過して実際に論文誌に掲載されていた(Wall Street Journal、Science Alert、Economist、これを指摘する研究者のTweet)。

(引用:財経新聞)

アラン・ソーカルについて

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの数学教授であり、ニューヨーク大学の物理学教授でもある学者です。ポストモダニズムへの批判者としてとても有名、ソーカル事件を起こしたことで知名度が高くなりました。

アラン・ソーカルの経歴

1976年にハーバード大学で学士号を取得、1981年にはプリンストン大学で博士号を取得。1986年~1988年の間、サンディニスタ政権下のニカラグアに滞在し、ニカラグア国立自治大学で教鞭をとります。

数字と物理の研究からいくつか業績があり、著書も何冊か出版しています。他者の概念の否定をよく発表していて、その中でも有名なのは「ソーカル事件」といっても良いでしょう。

雑誌を欺く行為に当然、左派とポストモダニストたちから批判を受けます。ですが、自身の動機としては「左翼を流行かぶれから守ること」にあると答えたそうです。

アラン・ソーカルの研究

ソーカルは数理物理学と組合せ数字の研究をしています。彩色多項式やトゥッテ多項式について業績があり、物理に関する結果を残しています。

だからこそ許せなかったのでしょう。あの有名な「ソーカル事件」で数学・理論物理学の用語や数式を適当に混ぜた雑文を「ソーシャルテキスト」誌に投稿したのです。

ポストモダニスト達が自分と同じように物理用語、数式を適当に使うことを許せないという気持ちをぶつけ、宣戦布告をし、社会に大きな反響を与えました。

編集長がイグノーベル賞受賞

1996年「ソーシャル・テキスト」誌にソーカルの論文を載せてしまったその年、編集長はイグノーベル文学賞を受賞しました。

イグノーベル賞受賞

「著者でさえ意味がわからず、しかも無意味と認める「論文」を掲載した」という理由でイグノーベル文学賞の受賞が決まりました。

ソーカル事件の件に関して「ソーシャル・テキスト」誌の編集長は、「ソーカルの論文を掲載した事を、心の底から後悔しています」とコメントをしています。

当然編集長は授賞式に出席はしませんでしたが、ソーカル本人は授賞式で祝福のメッセージを寄せて、このメッセージが式で読み上げられました。

イグノーベル賞とは

1991年に創設されました。「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して贈られるノーベル賞のパロディーです。現在この賞は、脚光の当たりにくい分野の研究に人々の注目を集めています。

ユーモア系化学雑誌のマーク・エイブラハムズ編集長が創設した賞で、面白いが埋もれた研究業績を広め科学的なものの関心を刺激するためと始めました。毎年9月もしくは10月に授与されます。

共同スポンサーは、ハーバード・コンピューター協会、ハーバード・ラドクリフSF協会といったSF研究会が数多く協賛し、イグノーベル賞を支えています。

イグノーベル賞日本人受賞者

日本人でイグノーベル賞を受賞した方って思ったよりたくさんいらっしゃるんですね。その中のいくつか紹介します。

1992年医学賞

「足の匂いの原因となる化学物質の特定」という研究に対して

受賞者は神田不二宏さん、八木栄一郎、福田實、中嶋啓介、太田忠男、中田興亜(以上、資生堂研究員)

1997年経済学賞

「たまごっち」により、数百万人分の労働時間を仮想ペットの飼育に費やさせたことに対して

受賞者は横井昭裕(ウィズ)、真板亜紀(バンダイ)

2008年認知科学賞

単細胞生物の真正粘菌に、パズルを解く能力があったことを発見したことに対して

受賞者は中垣俊之(北海道大学/理化学研究所)、小林亮(広島大学)、石黒章夫(東北大学)、手老篤史(北海道  大学/Presto JST)、山田裕康(名古屋大学/理化学研究所)

2018年医学教育賞

堀内朗が自ら内視鏡を操作し、座わって自分の大腸検査した論文「座位で行う大腸内視鏡検査―自ら試してわかった教訓」に対して

受賞者は堀内朗(昭和伊南総合病院消化器病センター長

「知」の欺瞞」を出版

物理学者アラン・ソーカルとジャン・ブリクモンとの共同著書です。

「知」の欺瞞の概要

目的として、「哲学」「人文科学」「社会科学一般」を批判することが目的ではないと述べたうえで、明らかにインチキでたらめな事に携わる一部の人々に警告を発することがまず一つの目的と述べ批判をしています。

それと「ポスト・モダニスト」や科学の社会学におけるストロングプログラムの立場をとる人達の論理に反論する考えであることを記載し、非論理的で地に足がついていない危険な考え方と述べ批判している内容です。

本書では、上記の著者たちにそれぞれ章が割かれ、「神秘的にみせたり、わざとあいまいな言葉遣いをしているもの、乱雑な議論、科学概念の誤用」と呼ばれる、知識人たちの営為からその「氷山の一角」が描かれる。例えば、リュス・イリラガイはE = mc2 が「われわれがそれなしでは生きていけない他のさまざまな速度をさしおいて特権化する」ゆえに、それが「性化された方程式」であると書いた文章が引用され、批判されている

(引用:ウィキペディア)

ジャン・ブリクモン

ベルギー出身の物理学者で著述家です。ラトガース大学で研究者として勤務し、プリンストン大学では教鞭をとっています。

現在、ルーヴァン・カトリック大学の理論物理学教授として、幾何学・物理学・確率論(GPP)研究ユニット(数理物理学科)に所属しており、ベルギー王立アカデミーの会員です。

ベルギー王立アカデミーのドゥルイツ賞(1996年)、国立科学研究基金5年賞(デ・レーウ・ダムリー・プーラート賞、2005年)を受賞しており、素晴らしい業績をあげています。

多くの著名人を批判

ジャック・ラカン、ジュリア・クリステヴァ、ポール・ヴィリリオ、ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ、リュス・イリラガイなど、たくさんの現代思想家達を長文で批判しています。

出版物の量も、招待講演も、大陸哲学、批評理論、精神分析、社会科学といった分野で中心人物である知識人達にいかに物理学・数学の概念を不正確に使用しているかを伝えたいか、気持ちがこもった内容です。

文脈から切り取られているという批判を避ける意味もあり、長文での引用のようです。

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