宇多田ヒカルの作詞技術が天才的すぎて震える!名曲の歌詞を徹底解説! エンタメ

宇多田ヒカルの作詞技術が天才的すぎて震える!名曲の歌詞を徹底解説!

宇多田ヒカルさんといえば日本が誇る女性シンガー。世に名曲を生み出し続ける彼女の圧倒的才能は、“天才”という言葉すら陳腐に感じられるほどです。今回は音楽系学校の作詞科を卒業した筆者が、宇多田ヒカルさんの音楽的才能を「作詞能力」に絞って解説したいと思います。

宇多田ヒカルの華麗すぎる経歴&波乱万丈人生

  • 名前:宇多田 ヒカル(うただ ひかる)
  • 生年月日:1983年1月19日(35歳)
  • 出身地:アメリカ合衆国ニューヨーク市
  • 1993年:9月、藤圭子・宇多田照實と共に音楽ユニットU3として日本デビュー。
  • 1998年:12月、宇多田ヒカル名義で1stシングル「Automatic/time will tell」を発売。
  • 2002年:4月、卵巣腫瘍の摘出手術を受ける。治療の副作用により11thシングルと3rdアルバムのプロモーション活動を中止。9月、映画監督の紀里谷和明との結婚を発表。
  • 2004年:9月、Utada名義で製作された全米デビューアルバム「EXODUS」の日本盤を先行発売。10月、同アルバムのアメリカ盤を発売。
  • 2013年:8月、実母である歌手・藤圭子が自死。
  • 2014年:2月、イタリア人男性と再婚
  • 2015年:7月、第1子となる男児を出産。

宇多田ヒカルさんの亡き母、藤圭子さんは「圭子の夢は夜ひらく」などの名曲で知られた元シンガーです。宇多田さんはいわゆる2世芸能人ですが、その実力は誰もが認めるところであり、親の七光りという印象はまったく受けません。彼女の才能あふれる楽曲の数々を、デビュー作から順を追って解説していきます。

宇多田ヒカルの天才的作詞:デビュー作Automatic

宇多田ヒカルさんのソロデビュー作となった1stシングル「Automatic」は、深夜番組「笑う犬の生活 -YARANEVA!!-」のエンディングテーマに起用されました。CDは8cm盤と12cm盤合計で200万枚以上を売り上げるミリオンヒット。宇多田さんは瞬く間に知名度を上げ、その人気は社会現象になるほどでした。

高校生の帰国子女が作詞作曲を手がけていること、彼女の母親が有名歌手であることにくわえ、ネイティブな英語の発音と心地よいグルーヴ感のあるメロディが当時は非常に新鮮でした。“宇多田ヒカルさんの楽曲が日本の音楽シーンに新たな風を吹き込んだ”と表現することは、大げさでもなんでもないでしょう。

「Automatic」の歌詞ってどんなの?

歌詞に関しては、15歳がすこし背伸びをした恋愛観を語っているという印象です。宇多田さんは精神年齢が高そうなので、彼女としては等身大の恋愛を表現したのかもしれません。「な/なかいめの ベ/るで受話器を」とフレーズの1音目が途切れるAメロの演出は今聴いても斬新です。

宇多田ヒカルの天才的作詞:traveling

2001年に発売された9thシングル「traveling」で、宇多田ヒカルさんは類まれなる文学センスを世間に広く知らしめました。“君”をデートに連れ出した“僕”の弾む心と刹那の欲望。そして一抹の不安を消し去ろうと衝動に従っている様子。「traveling」は思春期の若者特有のアンビバレンスな心情を見事に表現しています。

何よりも特筆すべきなのがBメロ部分です。「ふいに我に返りクラリ/春の夜の夢のごとし」「若さ故にすぐにチラリ/風の前の塵に同じ」と1、2コーラスとも軍記『平家物語』を引用しています。具体的には「奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もついには滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。」という箇所の引用ですね。

宇多田ヒカルのtravelingと平家物語の共通点

『平家物語』は平家の衰勢を描いた軍記物語。そこに描かれている無常とは、移ろいゆくものの美しさと儚さです。つまり移ろう少年のきらめくような幻夜を描いた「traveling」とは、共通の観念を持っていることになります。

しかしながら「traveling」は歌詞・メロディともに極めてポップな楽曲です。そこに鎌倉時代の軍記の引用を持ってくるという発想自体が凡人のそれではありません。しかも引用が調和を乱すどころか、テンションの上がるサビ(物語的には衝動に従い弾ける場面)の前に、ふと感じる惑いや不安を効果的に表現しているのには脱帽です。

宇多田ヒカルの天才的作詞:COLORS

2003年に発売された12thシングル「COLORS」は、トヨタ自動車のミニバン「WiSH」のCMソングに起用されました。キャッチーなサビ部分が流れて始まるCMは、記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。

この曲はタイトル通り「色」をひとつのキーワードとしており、歌詞の中には青・赤・橙・灰などさまざまな色が出てきます。そして「COLORS」をただの失恋ソングにとどめないもうひとつのキーワードが「夢」です。

宇多田ヒカルのCOLORSを読み解くキーワード「夢」

夢というキーワードに該当する歌詞は「今宵も夢を描くあなたの筆先渇いていませんか」「もう自分には夢の無い絵しか描けないと言うなら」の2箇所で、恋人であった“あなた”がいつしか夢を諦めてしまったという、失恋の経緯を伺わせます。

それが歌詞の最後「白い旗はあきらめた時にだけかざすの/今の私はあなたの知らない色」という、恋人との決別と、自身は諦めないという意思表示に繋がります。ただし「塗り潰してよキャンバスを何度でも」というフレーズから察するに、見限ったのではなく本心では恋人の再起を願っているのでしょう。

「COLORS」と「タイムリミット」の共通点

「COLORS」発売当時宇多田さんは20歳前後ですが、2000年発売の6thシングル「タイムリミット」など、“人生や夢に対する諦観を抱えた大人への反発”を感じさせる歌詞が散見されます。それが2006年発売の16thシングル「Keep Tryin’」につながっているのかもしれません。

宇多田ヒカルの天才的作詞:Be My Last

宇多田ヒカルさんが単なる才女ではなく、唯一無二の天才シンガーであることを決定づけたのが2005年発売の14thシングル「Be My Last」です。ラブソングはしばしば恋愛を永続のものとして甘く歌い上げますが、「Be My Last」はそんなものは詭弁だと冷酷な現実を突きつけています。

「Be My Last」に込められたテーマとは

「母さんどうして」という印象深いフレーズから始まる歌詞は、人が愛しあうことの根源的な悲哀を表現しています。人の感情は変化するもので、またどれほど深く愛しあっても完璧にわかりあうことはできません。恋愛は刹那的で儚いもの。だから「いつか結ばれるより今夜一時間会いたい」のです。

タイトルであり歌詞のなかでも繰り返し使われる「Be My Last…」というフレーズは、そんな残酷な現実を受け入れつつ、それでも誰かと愛しあいたいという切ないほどの祈りが表現されています。最後のサビ部分ではまるですすり泣くようなフェイクが入り、聴く者の胸を打たずにはいられない名曲となっています。

宇多田ヒカルの天才的作詞:beautiful world

映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」のテーマソングとして大きな話題を呼んだのが、2007年発売の19thシングル「beautiful world」です。この曲は宇多田ヒカルさんにしては珍しい、オルタナティブ傾向の強い歌詞となっています。

おそらくタイアップ先であるアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジのキャラクターイメージに合わせたのでしょう。歌詞のなかで特徴的なのは「それでいいけど」「別にいいけど」といった、投げやりで主体性を欠いたフレーズ。曖昧な言い回しで自己主張を回避したがる少年の特性を暗示しています。

宇多田ヒカルが伝えたかったこと

また碇シンジのキャラクター性のひとつに、極端な自己評価の低さがあります。アニメ中シンジは何度も「僕なんか」という表現をしますが、これは相対評価にさらされやすい現代の少年少女にも通じるところがあるのではないでしょうか。

宇多田さんは「Beautiful boy 自分の美しさまだ知らないの」と歌っています。自己を肯定できない思春期の少年の危うさを、見事な語彙センスで表現した「Beautiful world」。しかしあなたは紛れもなく価値のある存在なのだ、という宇多田さんの強いメッセージを感じる楽曲です。

宇多田ヒカルの天才的作詞:桜流し

映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のテーマソングである「桜流し」は、宇多田ヒカルさんの実母である藤圭子さんが亡くなるおよそ8ヶ月前に発表されました。「もし今の私を見れたならどう思うでしょう/あなた無しで生きてる私を」図らずもまるで予言のように、藤さんは2013年8月、62年の生涯に自ら幕を引きました。

胸を打つ「桜流し」の歌詞

桜の花びらを乗せて流れる小川のような、美しい旋律のピアノ演奏からこの曲は始まります。去年の春、桜が散るのを惜しんだ“あなた”が、今年の春は隣にいない。愛する人を悼みながら、それでも“私”は生きてゆくし、世界も続いていく。

愛する人との別離に惑い、哀しみながらも「全ての終わりに愛がある」と宇多田さんは歌っています。つらい別れは私たちの誰しもに起こりうることで、だからこそ「Every body finds love in the end(誰もが最後に愛をみつける)」という歌詞がひどく胸を打つのでしょう。

宇多田ヒカルの天才的作詞:道

2016年9月発売の6thアルバム「Fantome」のなかに「道」という楽曲が収録されています。宇多田ヒカルさん自身が出演した、サントリー天然水のCMでお馴染みの曲ですね。「道」は亡き母・藤圭子さんへのメッセージソングなのだそうです。

「道」のテーマは見えない絆

NHK番組「SONGS」で、自身の原点が亡き母であると語った宇多田さん。「一人で歩いたつもりの道でも始まりはあなただった」と「道」の歌詞に綴っています。過去を受け止め、新たな一歩を踏み出す“私”の行く末は自分でもわからない。けれどどんな道であろうと、“あなた”と共に歩むなら孤独じゃない。

「道」は“見えないけれど確かにある絆”を感じさせてくれる楽曲です。「消えない星が私の胸に輝き出す」「見えない傷が私の魂彩る」「私の心の中にあなたがいる/いつ如何なる時も」たとえ目にすることはできなくても、亡き人と紡いだすべてのものは心の中にあって、だから一人であっても孤独ではないと宇多田さんは歌っています。

宇多田ヒカルはこれからも歩み続ける

音楽に限らず、クリエイティブな作業にはインプット力とアウトプット力が求められます。アウトプットは表現力、インプットは感受性と言い換えてもいいでしょう。宇多田ヒカルさんが前者・後者ともに非常に優れていることが、おわかりいただけたかと思います。

2018年4月、宇多田さんが再婚相手であったイタリア人男性と離婚した事実が明らかになりました。「道」の歌詞のように、今後宇多田さんがどんな道を歩むのかはわかりません。しかしどんなことも、その豊かな感受性と表現力で素晴らしい歌詞に変えてくれるに違いありません。今後も宇多田さんの歌手活動を応援していきたいですね。